第1話
「あおい、生きてるか?」
「・・・いちおう、ね・・・・」
昴治のあいさつにあいまいに答える。
私は7月だというのに季節はずれの風邪をひき、一日中伏せっていたのだ。
「・・・それでお前のお袋さんから、お前の世話を頼む、て言われて来たんだけど・・・・人の話聞いてる?」
「ん〜ん」
私の両親は今日から親戚の法事のため、2,3日家に帰らない。その間代理をよこすとか言っていたけれど・・・
「ねぇ、何で昴治が頼まれたわけ?」
「何で、て言われても・・・一応信用されているんじゃないの、俺?」
たしかに外面はいいから・・・
「それで相葉母と祐希はどうしてるの?家にいるんでしょう?」
「母さんは相変わらず仕事で出張中、祐希はエアーズ=ブルーを探す放浪の旅に出かけて一ヵ月家に帰ってない」
「一ヵ月も?!心配じゃないの?」
「時々愚痴メールが届くから一応生きてるだろう」
「あっ・・・そう・・・・」
あの祐希が愚痴とはいえメールを・・・・信じられない・・・・
「あのさ・・・夕飯、俺が作るからお前はゆっくり休んでろよ」
「えっ?でも・・・」
「いいから!心配ないって!」
思いっきり心配なんだけどな〜〜まぁお手並み拝見といくか・・・・・でも食器とか壊したりしないか心配だな・・・・やっぱり・・・・
「昴治・・・これなあに?」
「えっ?夕飯だけど・・・」
「ご飯のほうじゃなくて、この食器!!」
正確に言えばそれは食器ではなかった。
「何でステンレスボールに料理が盛ってあるのよ!」
「いや、俺、お前んちの台所入ったことないから、食器の場所とかよくわからないし・・・」
「私に聞けばいいでしょう?・・・もう、変なことで気をつかうんだから・・・」
・・・ホントは、昴治は右腕が上がらないから自分より高い位置にある食器を取ることが難しい。
たとえ踏み台を使って取ったとしてもバランスを崩して落してしまうかもしれない。
だから自分より低い位置においてある食器を使おうとしたのかもしれない。
だけどこれじゃぁ、あんまり・・・
「とにかく、ご飯食べよう。早くしないと、冷めちゃうよ・・・」
「・・・ごめんな、あおい・・・」
「今度から、私も手伝うから」
「ああ、ありがとう」
こうして、この一件はとりあえず解決したけど、更なる困難が私を襲うこと、このときまだ知る由もなかった。
「ふう、やっと終わった」
俺は夕飯の後片付けを終えて一息ついた。
「それにしたって、あんなに小言を並べなくてもいいだろ」
さっきの夕飯のことを思い返す。
『・・・このおかゆ、ほとんど重湯なんだけど、お水の量間違えてない?』
『おかゆの場合、お味噌汁はつけなくてもいいだよ』
『この南瓜さぁ、もう少しお水を減らして砂糖を多めに入れて煮ると皮まで柔らかくなるのよ』
『普通チンゲン菜はお浸しにしないんだけど・・・』
・・・・・・まったく、もう少しは誉めてくれたっていいじゃんかよ〜〜
そう言うと
『昴治は誉めるとすぐ調子に乗って失敗するからこれぐらいがちょうどいいの!まっ美味しかったけどね。ごちそうさま。』
そう言ってさっさと自分の部屋に戻ってしまった。
・・・・・確かさっき手伝うとか言わなかったか?
そんな不満を残しつつ居間のソファで休んでいると電話が鳴り出した。
もちろん俺が取る。
「はい、相葉、じゃ無くて蓬仙・・・」
「は〜あ〜い!こーじく〜ん!げんきしてたぁ〜?」
・・・・・・なんなんだよこの酔っ払いは・・・でもこの声は
「あ、あおいのおやじさん?」
「いや〜んなんでわかったの〜?このイ・ケ・ズ(チュっ)」
・・・・誰か・・・誰でもいい・・・こいつを止めてくれ・・・・
「ところで〜こうじく〜ん・・・もうした?」
「・・・な、なにをですか?・・・・」
「お医者さん・ご・っ・こ(は〜と)」
!!!!!!!!!!!@。P;:;L9;P/-;-;L@。’+*;@+‘?:?‘〜+‘・・・・・・・
「あ、あ、あ、あんたねぇ!!!自分の娘にそんな!!・・・・それに病人襲うような真似できるわけないでしょう!!!外道じゃあるまいし!!」
「外道な奴は外道ルトの海に落ちてしまえ!・・・受けた?受けたでしょう?こ〜じく〜ン」
・・・・・寒い・・・寒いよ・・・・ねぇさん・・・・(←悪影響)
「もおう、なんとかいってよぉ〜そうじゃなきゃ、つ」
( どこ、ばき、めき、ぐちゃ、ぼこ、めり、ばり、ずし、みし、etc .etc・・・・・・・・・)
「あ、昴治君?あおいの母です」
「・・・・お、おふくろさん?・・・・よかった・・・・」
「ごめんなさいね、主人酔っ払ってて。なにか変なこと言いました?」
「いえ・・・・全部忘れました」
「そ、そう、よかったわ・・・・あの・・・あおいは?」
「さっき部屋に戻りました。多分寝てるんじゃないかと・・・」
「そう、ごめんなさいね。こんなこと頼んじゃって」
「いえ、そんな・・・・ところでなんで俺に頼んだんですか?こういうことは普通女の人に頼むのが」
「自分が困っているときには、一番好きな人にそばにいてもらいたいものなのよ、昴治君」
「はぁ・・・・」
「それじゃ、あさってには戻りますので、それまで悪いけど、あおいのことお願いいたしますね」
「あ、はい、わかりました」
プツッ・ ツー・ツー・ツー
「ホントに・・・・・・これでいいんだろうか・・・・」
そんな大いなる不安を抱えて俺はあおいの部屋に向かった。
その不安はやがて意外なかたちで俺の前に現れることも知らずに・・・