第2話

「昴治、どうしたの?顔色悪いよ」
「あ、あぁ・・・ちょっとあって・・・」

 ――部屋に入ってきてからずっとこの調子である。なんかそわそわして落ち着かないような・・・それでいてため息をつく。

「さっき、電話があったみたいだけど、誰から?」
「あ・・・おまえのお袋さんから・・・あさってには帰るから、それまでよろしくと」
「そう・・・お父さん、なんかいってなかった?」
「ウッ・・・酔っ払ってたから・・・とくに・・・」
「うそぉ!・・・ヤダ、なんか変なこと言ってたでしょう?」

 わたしの父は酔うと、とにかく変なことを口走るのである。

「全部忘れたから・・・」

  ――やぱっりいっていたらしい。でも、何を話したか聞きたくない。多分ろくでもないことをいったはずだから・・・


「どうでもいいけどこの部屋寒くないか?」
「?、どうして。ちょうどいいけど」
「いったい何度に設定してあるんだよ?」
「18℃だけど」
「だから風邪ひくんだよ!!!」

 ・・・そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない

「とにかくリモコンかせ」

 昴治が枕元においてあるリモコンに手を伸ばすより先に、私がそれを掴んで抱え込む。

「やだぁ!!!汗掻くでしょう!」
「俺は真夏に凍死したくないんだよ!!!」

 昴治が迫ってきて私の片手を掴み、そのままもみ合いになる。

「貸せ!」
「ヤダ!」
「いいかげんにしろよ!」

 半ば強引にリモコンを掴んで取り上げられたと思った瞬間・・・

びりっ!

「えっ・・・」
「あっ・・・」

 彼の手はリモコンと共に私のパジャマも掴んでいたらしい。
 だから、取り上げられたとき、パジャマもいっしょに裂かれ、彼の前に裸の胸を晒すことになってしまった・・・

「あっ・・・・やっ・・・・・・イヤアアアアアア!!!!!」

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。
 気付いたとき、瞳に映ったのは、艶づきはじめた少女の白いふくらみだった。
 その少女があおいだと知ったとき・・・彼女 その少女があおいだと知ったとき・・・彼女の悲鳴が俺の心を突き刺し、続いて左頬に衝撃が走った・・・


「着替えるから・・・そこ、どいてくれる?」どれくらい時間がたった頃だろう、あおいに声をかけられて、ようやく我にかえった俺は、いまだベッドの上で座り込んでいるのに気付いた。

「ごめん、俺が悪かった」
「声をかけないで!・・・・」

 そして、彼女は俺と視線を合わすことなく、ベッドを降りるとタンスの前に向かった。
 正直ムッときたが俺が言えた義理じゃない。
 部屋から出て行こうとすると、また声をかけられた。

「ここにいていいから、こっちを見ないで」

 ・・・さっきからなんなんだよ!・・・・
 背中越しに聞こえる衣擦れの音が、余計に俺をいらだたせた。
 あいつの心が読めない分、不安も大きくなる。自分の心の限界が近い。
 足音が近づく。
 居たたまれなくて、声を出した。

「あおい!」 「・・・・」 「おい!・・・・・」 「・・・・・・」

 ―――――完全に無視かよ!
 もう我慢できない!
 俺は彼女の腕を取って、そのまま体ごと壁に押し付けた。

「なんなんだよ!!!!!さっきから!・・・・・俺には何も言わせないで、おまえから一方的に・・・・嫌がらせのつもりかよ!」
「やっ・・・はなして・・・怖い・・・お願いだから・・・・見ないで・・・・・」
「!!!・・・・あおい・・・」

 ――怯えていた。
 体を震わせて。俺のしたことが、想像以上に彼女を傷つけていた。
 ただでさえ、体が弱っているのに・・・・・
 あっ!そうだ、彼女は!!!!

「おい!しっかりしろ!!!」

 目の前で彼女が崩れ落ちた。額をあててみる。
 明らかに熱が上がっている。
 感情が昂ぶって体温が上昇してしまったらしい。
 彼女を抱きかかえて、ベッドに運び込んだとき、自然と涙が零れ落ちた。

「ごめん・・・・俺・・・自分のことしか・・・考えてなかった・・・・おまえのこと・・・・わかってなかったよ・・・・・」