第3話

 あんなにはっきり、体をさらしたのは、初めてだった。
 いつもは、闇にまぎれて、恥ずかしさも一緒に、ごまかすことができた。
 けど、光はすべてを曝け出す。
 裸の私を、私を見つめる彼の視線を、逃げ出すことができない現実を・・・

 ・・・気が付くと、ベッドの上にいた。
 あのあと、昴治が運んでくれたようだ。
 額に手を当ててみる。
 熱はだいぶ引いたみたいだ。
 体も心なしか軽く感じる。
 ・・・ただ、気分だけがとてつもなく重かった。

 ――恥ずかしかった。
 胸を見られたことがとにかく恥ずかしかった。
 怒りよりも、悲しみよりも先に・・・
 今はだいぶ落ち着いてるけど、それでもまだ昴治の顔をまともに見る自信がない。
 言いたいことが・・・伝えたいことがあるのに・・・

 「もう!昴治の・・・・馬鹿・・・・」

 今夜は二人だけなのに・・・・
 ずっとそばに居てくれるのに・・・・
 こんなに苦しいのはヤダヨ・・・
 そりゃあ、さっきのこと、まだ怒ってるけど・・・・
 まだ恥ずかしいけど・・・
 少しショックだけど・・・
 でも・・・声が聞きたいよ・・・
 どんな言葉でもいいから・・・
 でも・・・怒鳴られるのは、ヤダな・・・
 さっきは、ちょっと私もまずかったけど・・・

 彼は今、ベッドの足元に背を預けて、片ひざを抱えている。
 部屋が暗いから、表情まで見えない。
 でも、眠ってはいないから・・・今だから伝えられる。

 

 「俺って、やっぱ・・・気負っちゃうんだよな・・・」

 昨夜からのことを思い返していた。
 夕飯のことはともかく、親父さんからの電話で意気消沈し、つまんないことであおいと口論となった。
 その最中に彼女の服を裂いてしまい、恥ずかしい思いをさせたにもかかわらず、俺は逆ギレをしてしまった・・・

  「ちゃんと謝らないとな・・・言い訳なんかしないで・・・」


「昴治・・・・お願い・・・・ここに来て・・・・・」

 ふと、あおいにに呼ばれた気がして振り向いた。彼女が腕を伸ばして俺を見ている。

「今、呼んだ?」
「うん・・・・こっちに来て」

 俺は枕元まで近づき、そのそばに座りこんだ。

「さっきはごめんな。俺・・・・自分中心で考えてて、おまえのことぜんぜんわかってなかった」
「別にいいよ・・・・・・て、いいたいところだけど!今度のデート費用五割増ね!」
「うわ〜〜〜〜やっぱし?」
「だって・・・・見られちゃったし・・・・それと・・・・・今夜は・・・・・その・・・・」
「・・・・わかってる、なにもしないよ。ずいぶん無理させちゃったからな。」
「ありがとう、昴治・・・・・・いつも通り、そばにいてね。ただそれだけでいいの。それだけで幸せだから・・・」
「・・・そうだよな。俺もそう思ってた。逆に気を使いすぎると変にリキ入っちゃって失敗するんだよな・・・なんかまだまだ昔の癖がでちゃうんだな、俺」
「あせることないよ。私もそうだし・・・人は少しずつしか変われないし・・・」
「考えていること、俺と同じだな・・・・なぁ、あおい・・・・」
「なあに?」

 俺はあおいの片手を手にとってそっと口付けをした。その手を彼女の唇にそっと当てる・・・・・・・・

「・・・・・へェ〜〜昴治やるじゃん!」
「おやすみのキス・・・・けっこうキザだろ」
「うわぁ、自分で言うかなぁ・・・・・・まぁいいか、おやすみ・・・・昴治」
「おやすみ・・・・あおい」

 手元の時計を手にとって見る。

「午前3時過ぎか・・・・・」

 目を閉じてもなかなか寝付けない。
 いや、無理に寝ることもない。
 心が落ち着けば自然と眠くなる。
 それまで、ずっと君のことを見つめていよう、心安らぐまで。
 夜明けまであと2時間あまり・・・

「君が俺のそばにいる、それが何よりの幸福だよ・・・・・」

終わり