第2話 あの日 最後に見た笑顔

 

―今から約3週間前・聖リベール女学院にて

  「スプリングフェスティバルの演目ってさぁ〜またあれ?・・?」
  「うん、『ロミオとジュリエット』」
  「えぇ〜、−−;もっとさぁ、冒険ものとかファンタジーとか、自分たちのオリジナル脚本とか、そういうのやりたいよね〜」
  「しょうがないじゃん!うちの学長達の趣味なんだし」
  「もぉ〜!生徒にまで自分たちの趣味押し付けるなんて最悪!!d ̄0 ̄メ」

 そんなことを話しつつ、こずえとレイコは体育館に向かっていた。
 二人は共に、この学院の演劇部に所属しているのである。

  「あ・・・・・・また来てる」
  「アンジェちゃんの取材か・・・・ホント、よく来るよね」

 体操界のホープであるアンジェに対する期待は予想以上に大きく、こうして取材が来ることも珍しくない。
 むしろ学長であるアンナ=ド=ポンパドールをはじめ、学院の教職員はそうしたことに積極的だった。

  「あ〜もぉ((o(> <)o))!アンジェちゃん以外にもとびきりの美少女がここにいるのに〜!!!
  一人ぐらい気づいたっていいじゃない!!取材陣め!」

  「無理に決まってるでしょう?−−;あいつらアンジェちゃん以外はアウトオブ眼中なんだから。
  まぁ、わが演劇部にも昔いたんだけどねぇ〜C= (-。- ) 」

  「えぇ! (*゜ロ゜)ノミ☆(;>_<) ダレダレ!?」
  「(_ _,)ゞイタタタ・・・・あんた知らないの?
  ほら、わが演劇部の救世主とも言われた」

  「お前たち!勝手な真似はやめろ!」

 体育館から大きな怒声が響いた。

  「何があったんだろ・・・・・」
  「急ごう!」

 二人が体育館に入ると、そこにはアンジェを中心に黒山の人だかりができていた。
 レイコはそばにいた少女に状況を聞いた。

「・・・カメラマンの奴がさ、アンジェにきわどいポーズを要求したらしいの。
  それで先生達と揉めてたら、いきなりあの人が怒鳴りこんできたわけ」

  「ふ〜ん」

 向き直ってその男を改めてみる。
 サングラスをかけているが、かなりイケテルタイプらしい。
 背も高く、声もなかなか悪くない。

  「う〜〜〜ん、まぁ及第点、てとこかしら」

 そう言ってこずえのほうに見ると・・・

  「(・_・?)・・・・・・・・・こずえ?」
  「(☆o☆)キラーン    キ・メ・タ・ワ」

 こずえはこの上ないほど瞳をときめかせ、満面の笑みでそうつぶやいた。
 と思った瞬間

  「わ―――――!!!!Σ( ̄□ ̄こずえ――――!!!!!」

こずえは猛然とダッシュしてサングラスの男に飛びつき、一気にまくし立てるように、自己紹介をはじめた。

  「は〜いはじめまして! \(^o^)/わたし、和泉こずえ、かよわき乙女な16歳。
  聖リベール女学院普通科で演劇部所属で〜ス。
  (^^)v今度のお芝居でヒロインのジュリエット役(予定)を演じます!
  成績は中の上で得意科目は音楽と家庭科。
  好きなスポーツはバドミントンとダンス。
  趣味はお菓子作りで特技は・・・」

  「いい加減にしとけよ、このガキ!凸(`△´#)」

 いつのまにか背後にいた、いかがわしいカメラマンが、こずえの肩をつかんでいた。が・・・

邪魔しないで ―――!!!!! ゜・゜*・(゜O゜(☆○=(`◇´*)o 」

 こずえの渾身の一撃が炸裂!!!
 カメラマンは見事後方に吹っ飛んだ。

  「てめー―!!!」
  「・・・・・・・やめときな・・・・ジジィ・・・(-_☆)」

 カメラマンの後ろにまわっていたレイコは、演劇部仕込みのドスを聞かせた声と、柔道部の友人にレクチャーされた護身術で、奴の片腕を軽くひねり上げてしまった。

  「う。ぎぃいいいぎゃぁああああ」

 かなり妙な悲鳴をあげて苦しがる。
 そのとき

  「もう、やめて」

 当のアンジェがレイコに手を差し伸べてそう言った。

  「え?でもあなたさっき・・・」
  「もうその人も反省しています。だから離してあげてください」

 その言葉はとても温かく穏やかで、頑なな心を一瞬にして溶かしてしまうような力があった。
 その言葉に従いレイコはその男の腕をそっと離した。

  「ちっ・・・」

 カメラマンは軽く舌打ちしたあと、自分の非礼を型どうりの言葉で詫び、そそくさと帰っていった。

  「助けていただいて、どうもありがとうございました」

 アンジェは深々と頭を下げてお礼の言葉を述べた。
 その顔は、この場にいるものすべてが初めてみる、アンジェの嬉しそうな笑顔であった。
 先ほどのヤローとは天と地との差だ。

  「ヾ(≧∇≦)〃いや〜そんなことないわよ〜〜えっっとぉ・・・こずえ!・・・・(・・?))アレ((?・・)アレレ・・・?」

 そのときこずえはまだサングラスの男に馬乗りになって、彼を口説き落としていたのだった・・・・・


  「―――― あのあと、その男の人から私たち名刺をもらったんです」
  「その日ちゃんと取材をできなかったから後日改めて、というわけで。
  でも、翌日からアンジェちゃん、学校に来なくなって・・・・・・
  慌てた学校側がよくよく調べてみると、ほとんどの取材がいかがわしい雑誌系で、ときどき偽者の記者も混じってたそうなんですって!」

  「相変わらず内の学校、そういうところずさんよねぇ┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ〜」
  「そうです!あおい先輩。良くぞ言ってくれました!」

 レイコが威勢よく叫んだ。

  「先輩?」
  「アレ?知らなかったの?あたしここの出身なの」
  「しかも当時の学生演劇界のトップ女優だったのよ。
  幼馴染なのに知らなかったの?昴治」

  「・・・・俺、そんときいなかったし・・・・・−−;」
  「そ〜よね〜、一人で勝手に国際公務員試験受かっちゃって3,4年帰ってこなかったもんね〜(`ヘ´) フンダ!!!」
  「(・"・;) ウッ・・・」
  (なんかムカツク(-_-メ;)・・・・・・・・・・それでさっきの話に戻るけど、その名刺今もってる?」
  「はい!・・・・・え〜っと・・・・・これです!」

 レイコはファイナにそれを渡す。
 そのよこから昴治は名刺を覗き込んで、目を見開いた。

  「(フリージャーナリスト・・・・・・・・・尾瀬イクミ!?)」


  「・・・それで私のところに来たわけ?」
  「ああ、何か情報とかはいってない?」

 昴治はそういって烏龍茶のはいったグラスに口をつけた。

―――ここは新宿の某所にあるバー、『蒼い鳥』

 そこの曰くありげなマスター、クリフ=ケイと昴治はちょっとした顔見知りであった。
 ちなみに昴治は酔っ払って店で暴れて以来、この店でのアルコールの類は一切サービスされていない。

  「そうねぇ・・・妙なサーカス団の話なら知ってるわよ」
  「?(‥ )・・・・・なにそれ」
  「ちょっとまってて。今プリントアウトしてくるから」

 しばらくして、クリフが1枚の紙を手にして戻ってきた。

  「はい、これよ」
  「・・・・・・・・・・うっわ〜・・・すっげーバカ!この文章・・・・・・」

 その紙にはこう書かれていた

・・・・ 来るべきときのために!

***サーカス団員募集中!!!***

  ヤア!みんな、私はこのサーカス団の団長であるルクスン北条だ!
君はこの世の中充実して生きているかな?
ナニ?つまらない、退屈、暇で暇でしょうがない?

バッカモ〜ン!!

そんなこと言ってるから世の中ダメになるのだ!!

ダメのダメダメだ――!!!

・・・エェー、コホンッ!(;-o-)o"、そうではない。

そんな若者よ!ぜひわがサーカス団で青春を謳歌してみないか?!
経歴不問!やる気さえあれば誰でもOKだ!

サア!『ブラティカサーカス団』で僕と握手!

 

  「何だかなぁ・・・C= (-。- ) 」

 昴治は大きなため息をつく。

  「そのサーカス団に2週間前から新人が入ったみたいなんだけど、その娘がすごい人気なのよ。
  ネット上で早くも話題沸騰!」

  「ずいぶん、詳しいですね」
  「2,3日前にミシェルが彼氏と行ったらしいの、そこ・・・」
  「まぁ、私にはかなわないけどねぇ〜」

 そこにクリフの14歳の妹、ミシェル=ケイが現れた。

  「ほかの出し物はぜ〜んぜんつまんなかったけどさ、その娘の空中ブランコなんかもう絶品!
  彼女のためにあのサーカスがあるようなもんよねぇ〜て感じ?」

  「へぇ〜・・・そんなに凄いんだ」
  「そ!、百聞は一見にしかずってネ。
  ・・・それと!観にいったのは彼氏じゃなくって私の『愛の下僕』だから勘違いしないでね!」

  「下僕・・・・・.....(;__)/| 」
  「そうよ!、仮にも成績優秀、スポーツ万能、類まれに見る美少女のあたしをそう簡単に落とせるわけがないんだから!(*^-゜)v♪」
  「・・・・・そ、そうだね」
  「なによぉ〜、その間わぁ〜\(`へ´)」
  「イや・・・・・その・・・深い意味は・・・、ヽ`(~д~*)、ヽ`…(汗)」

 そのとき、店のドアが開いた。入ってきたのは・・・

  「ブルー!!!!(*/∇\*)キャ」

 彼―― エアーズ=ブルー ――の姿を認めたミシェルは歓喜の声をあげて、真っ先に彼のもとへ駆け寄った。

  「いらっしゃい、今日は珍しいわね。前触れもなく来るなんて」
  「ああ・・・・・・」

 そう短く答えると、ゆっくりカウンターに歩み寄り、昴治の隣に腰を下ろす。

  「今日は?」
  「いつもの」
  「は〜い!ブランデーのストレート!」

 ミシェルからグラスを受け取り、それを軽くあおって唇を潤す。

  「あ〜ん・・・艶っぽい・・・・(*⌒0⌒*)」

 思わずクリフがつぶやく・・・・・・

  「お兄様じゃ無理よね〜」
  「・・・・・・・・・こんどそれいったらぶっ殺す・・・・・・凸(-_-メ)
  「(^ー^* )♪フフ〜ン」

 クリフの言葉を軽くあしらい、ミシェルはブルーの隣に寄り添った。

  「・・・・・・・・吐いたか?」
  「はぁ?」
  「あいつだ」
  「あっ・・・俺に言ってるのか」
  「・・・・・・・・・・・・・」
  「(相変わらず、言葉の足りないやつ!( ̄、 ̄))」

 心の中で毒づく昴治。
 どうやらブルーは昨日昴治たちが取調べした男のことを聞いているらしい。

  「V.Pに関しては白。だけどやつの後ろ盾ははっきりした」
  「・・・・・・・・・ベルコビッチ!・・・・・」
  「ああ」

―― セルゲイ=ベルコビッチ ――
   数年前、ブルーの実父・ブルー政務次官を失脚させ、一家心中にまで追い込んだ男・・・

  「とりあえずコレ。今回の取調べ他のデータ」
  「すまない」

 昴治から渡されたディスクを懐にしまいこみ、席を立つ。

  「〜〜〜〜〜((((((ノ゜凵K)ノあああっ!もういっちゃうの〜!」
  「ああ」
  「もうひとつ!・・・・イクミが3週間前付近に現れたらしい・・・・」

 その言葉にブル-の視線が険しくなる。

  「本当か?」
  「今日聞いたばかりの話だ。確証はまだない」
  「・・・・・・・そうか」

 そういい残すとさっさと店から出て行ってしまった。

  「ンモォー!! o(*≧д≦)o″))イケズ〜〜」

 唇を尖らせるミシェルに対し、クリフは冷たくつぶやく。

  「ホント、まだまだお子様!」
  「う・る・さ・い!」

 そんなやり取りを聞きつつ、昴治はあることに思い当たる。

  「(まさかとは思うけど・・・・)なぁ、ミシェル」  
  「なによ!」
  「さっきのサーカス団の話、もっと詳しく聞かせてくれないか?」
  「見返りは?」
  「へっ?」
  「まさか『チームブルー』からタダで情報もらおう、と思ってないわよねぇ?( ̄ー ̄)」
  「ネェ〜!」
  「はいはい、わかってますよ・・・(ー。ー)フゥ」

――― チームブルー ―――
 賞金をかけられた賞金稼ぎ、エアーズ=ブルーを筆頭に闇の世界を暗躍する集団。
 そんな彼らと昴治、そして尾瀬イクミには深い因縁があった。