第5話 あらがえぬまま
――夕刻・代々木国連ビル内会議室前
ひと足先に到着した祐希は、そこを通り過ぎようとして一瞬足を止めた。
室内から明らかに、不穏な妖気が漂っていたからである。
「またあの女か!」
祐希は一旦ドアから離れて半歩後ろに下がる。そして思いっきりドアを蹴り倒した!
「何してやがる!!!!」
「アラ、お帰りなさい。祐希君・・・・・」
室内は怪しげなお香の煙が充満していた。
よく見ると、お香の中心あたりにファイナのペット、ラーフラがサ○エさんちのタ○のごとく、腰振りダンスをしている。
「ふふ・・・( ̄ー ̄)昴治が二度とオイタをしないようにするにはどうしたらよいか、ラーフラで占っているの・・・あなたもいかがかしら?」
「いえ・・・・けっこうです・・・・・」
祐希はそれだけ言うのがやっとだった。
「・・・そうか、それはご苦労だったな」
「いえ、そんなことありませんよ。おれの、いや私の実力ならばこんなこと朝飯前ですよ。」
本部に戻ったグランは特捜課課長・矩継に仕事の報告を終えたところだった。
そこに祐希が荒々しくやってきた。
「ちっ!やっぱりか!!」
「やァ、今ごろ到着かい?祐希君。」
グランは余裕で祐希に答えた。彼の驚きぶりが面白かったらしい。
「あんたは確か俺たちより後の便だったはずだろ!!」
「君たち庶民とは違うのだよ、俺は!わかるかい?┐('〜`;)┌」
「貴っ様〜!!」
「やめろ、二人とも」
矩継は静かに制した。
「グラン、その件に関してキャンベル長官から呼び出しがあったぞ。
そして祐希、他のメンバーはどうしたんだ?」
「・・・・事故渋滞に巻き込まれて・・多分カーチェイスの最中でしょうね」
「またか・・・(ーー;」
矩継は力なくうつむいた。
―――― その頃の昴治たち
「げっ!!またパトカーの数増えた!」
『そこの赤いミニバン!!停まりなさい!公務執行妨害と道路交通法違反で逮捕します』
「ちっ、やっかいだぜ・・・」
「お前の性だろうが!!\(`□´)/」
「文句あるならここで降りろ・・・」
「あ・・いや・・その・・・(+_+)」
「今のお兄様に何言っても無駄よ〜!乂(>◇<
)
ハンドル握ると人が変わっちゃうんだから〜(_πдπ) 」
「全速力を持って振り切る・・・」
アクセルをさらに踏み込む昴治。
「ヤメロ――!!(≧◇≦)」
「渋滞起こした奴一生恨むぞう!!(T^T)」
「もうイヤ――!!!:・。・゜゜・(≧◯≦)・゜゜・。・」
「・・・と、言うわけで何とか振り切りました。(⌒∇⌒)」
「ほ〜・・・(ーー;・・それは大変だったなぁ、相葉昴治君。」
先ほどとは打って変わって、さわやかな笑顔で答える昴治。
それにに対し顔を引きつらせながらも何もかも悟りきって、矩継は勤めて冷静に言葉を返した。
「ところで、例のサーカス団は?」
「ああ、何とか裏が取れたよ」
「やっぱりイクミですか?」
「ああ、あとヘイガ―もいるらしい」
「Σ(゜◇゜;) ゲッ!あの[ピ――――――――]もですか!」
「それはちょっとヤバイだろう。あたっているけど」
ヘイガ―、かなりヤバイ奴らしい・・・
―――国連ビル・地下拘置室
「よう、お前ヘマしたらしいな。」
グランは一人の男に呼びかけた。
彼は先日昴治達が取り調べて男、ソン=ドッポである。
「ちっ・・・お前に言われたくねぇよ。」
「そう言わずに、俺と組んでみないか?」
その言葉にソンは耳を疑った。
「何言ってるんだよ!そんな事できるわけないだろう!」
「俺にはできる。これがあるからな」
グランはポケットからある物を取り出す。
「はう!!!!」
それを見た瞬間、ソンは何かに取り付かれたように立ち上がった。
「やってくれるな?」
「アア・・・」
そう答えるソンの瞳に生来の光は宿っていなかった。
―――ブラティカサーカス団・出演者控え室
その片隅であおいはひとり考え込んでいた。
先ほどのリハーサルの最中、自分を見つめていた人物。明らかにV.Gのリーダー・グラン=マクダニエルであった。
一体何でこんな所にいたのか?
そして、彼の後方にいたサングラスをかけた男とまるで爬虫類のような目をした男。
特にサングラスの男が彼女たちーこずえとレイコが話していたフリージャーナリスト・尾瀬イクミの特徴によく似ている。
念のため本部に報告はしたのだが・・・・・・・・・
「あおい先生!どうしたんですか?さっきから黙っちゃって?」
「気分悪いんですか」
「あ・・・ごめんなさい。ずっと考え事してたから。」
こずえとレイコに声をかけられて、あおいは我にかえった。
「ところで〜あおい先生の衣装、すっごいセクシーですね〜」
あおいの衣装は、ビスチェとビキニパンツのセパレートスタイルで、その上にジャケットを着用。
色はダークブルーで統一されている。
「おまけにないすばでぃーですよね。ほんと、羨ましい。」
「でも〜胸は私のが大きいかも・・(*^.^*)エヘッ」
「あはは・・ありがと・・・二人とも」
・・・実は、二人のいない隙に胸パットを入れて、Dカップバストの衣装を満たしていたあおい。
それでも全身レオタード着たこずえのバストに及ばないことに、複雑な心境であった。
「ところで、さっきネーヤの控え室に行ってみたんです。」
「先生の言ったとおり、ただの一ファンとして近づいてみたんですけど。」
「どうだった?」
首を横に振る二人。
「ぜんぜん無理!ガードが固くて近づけませんでした。」
「入り口に立っている人は、本当にただの人なんです。だけど、中から変な威圧感ていうか・・・その・・・」
「大丈夫よ、謝んなくても。二人ともありがとね、こんな危ないこと頼んじゃって。」
「いえ、いいんです。私たちも無理言ってくっついて来たわけだし。」
「それに、ネーヤがアンジェちゃんであると、決まったわけじゃないし。」
「出番10分前で〜す。お願いしま〜す。」
係員が控え室に声を懸けていった。
あおいたちは、このサーカスの目玉・『空中ブランコショー』の3つ前の演目としてステージに立つ。
「さぁ、本番よ!二人とも、気を引き締めてがんばりましょう!(^ー゜)ノ♪」
「は〜い!了解しました!(^-^ゝ」
「うぅ〜、なんか緊張してきたぁ〜…o(;-_-;)oドキドキ」
颯爽とステージに向かう3人。
これから起こる、陰謀に巻き込まれることも知らずに・・・・・
サーカス団の花形・『空中ブランコのネーヤ』の控え室に一人の男が入ってきた。
「本番30分前だ、準備してくれ!」
「わかりました、尾瀬さん」
「イクミでいいよ、アンジェさん」
「あ、はい。・・・あの、ひとつ聞いていいですか?」
「いくつでもどうぞ。」
「いつまで、こんなことするんですか?父や弟のマーヤのことが心配ですし・・・それに学校も。」
「コンラッド博士には了解済みだ。心配は要らない。
それと、学校のことなんだか・・・今朝、警察の捜査が入ったそうだ。」
「!・・・・・・どうして、そんなことが」
「どうやら、学校の資金をどこかに流用していたらしい。PTAからの指摘で判ったそうだ。」
「それじゃぁ・・・」
「あぁ、しばらくは休校だそうだ。とにかくあと一週間だけ協力してほしい。
そうしたら必ず君を家に帰す。約束する!」
「ありがとうございます、イクミさん。」
「じゃぁ、準備よろしく!今日の公演も成功さよう。」
「えぇ、そうですね。」
イクミが出て行った後
レオタードに着替えたアンジェは、鍵のついた引き出しから小さなシルクの包みを取り出した。
そのシルクを解き、出てきたペンダントを首にかける。
そして、胸元に落ちた水晶に似た飾りを両手で包み、祈る様に目を閉じた。
その瞬間
赤い紫の帯状の光が彼女を取り巻き、レオタードから華やかな衣装に包まれた。
その姿はこのサーカス団のスター・ネーヤのものであった。