第6話 錯覚する予兆(または同性愛)

 

  「('_?)...ン??・・・・あれ?なんで寝てたんだ俺?ここは・・・」

 ――新東京・国連ビル内の医務室
 そこで目覚めたのは昴治である。

  「あら、気が付いた?相葉君。」

 声を懸けてきたのは総務課のアイドル的存在、ユイリィ=バハナである。

  「イテッ・・・・なんか頭がガンガンする・・・」
  「あなた会議室で倒れていたのよ。ファイナさんと二人でここに運び込んだのだけど、何かあったの?ガス中毒とか?」
  「あ、ありがとうございます・・・。えっとぉ、会議室、ファイナ、ガス中毒・・・・あっ!」

 ―――思い出した!
 確か俺はファイナに呼び出されて会議室に行った。そして部屋に入った途端、怪しげな煙に当てられ気分が悪くなってうずくまった。
 その瞬間怪しげな物体に正面から突き飛ばされ、後頭部を打ち脳震盪を起こして気を失ったのだ。

  「(((;・・)?どうしたの?まだ気分が悪いならもう少し寝ていてもいいのよ?」
  「いや、いいです!・・・・はは、は・・・(^^;ゞ」

 まさか(ほぼ確実に)女に襲われたとは、口が裂けても言えない。

  「そういえば今何時ですか?かなり暗くなっているようですけど。」
  「もう夜の7時をまわっているわ。そうそう!あなたが寝ている間大変だったのよ。」
  「えっ?何かあったんですか?」
  「ソン=ドッポが脱走したのよ」
  「えぇ―――!!!まじっすか!!!」
  「相葉君大袈裟すぎ!」

 ユイリィの話によると――
 夕方の6時ごろ、地下拘置室の警報装置が作動したので現場に駆けつけたところ、中はすでにモヌケの殻だったそうだ。
 しかも、状況から察して実際に逃走したのは警報ベルがなるかなり前であることも判明した。

  「警報装置を調べたんだけど、そこにタイマーみたいな物が付いていたの。 防犯カメラにもそれらしい人物は写ってなかったし。」

 この事態に本部内はパニックになり、一旦帰宅した職員も呼び戻して現在大幅な捜索が続けられている。
 ちなみにユイリィが昴治を発見したのはこの時だという。

  「 会議室から変な匂いがしたから慌てて中に入ったの。
  そしたらあなたが倒れてて。側にいたファイナさんが衣服を緩める適正な処置をしてくれたから何とかなったけど・・・
  ・・・・・・そういえば、なんかズボンのベルトも外れていたような気が」

  「そ、そうだったんですか・・・・ははは」

 力なく笑いつつも昴治は内心冷や冷やだった。
 緊急事態とユイリィの発見がなかったら今ごろ自分はどうなっていたか・・・
 この日から昴治はユイリィに足を向けて眠れなくなったという・・・・・


  「さぁ、続いての演目は!
  我がブラティカサーカス団のニュースター!
  蓬仙あおいによる『着ぐるみマジックショー』!!!」

 行方不明のルクスンに変わり、司会担当になった青年が威勢良く叫ぶ。
 ステージの照明が落とされた後スポットライトがあちこちを駆け巡る。
 アップテンポの音楽がさらに会場を盛り上げる。そしてすべてのスポットライトがステージに向けられた。
 そこに華やかに登場したあおいが観客の拍手に迎えられ、こずえレイコのコンビをはじめとする着ぐるみたちがコミカルなダンスで会場の笑いを誘っていた。

  「(うう〜ん、この緊張感も久しぶりね!)」

 観客の歓声と熱気を肌で感じて昔を思い出すあおい。しかし、すぐに気を引き締めて最初のマジックに取り掛かった。

 

  「・・・・なかなかやるじゃないか、蓬仙の奴。」

 サーカステント内の上部に設置された空中ブランコの踊り場、グランはそこからステージの様子を見ていた。
 ステージ上のあおいは次々と華麗にマジックをこなし観客を魅了していた。とても今日がはじめてのステージとは思えない。

  (・・・しかし蓬仙の胸あんなにでかかったか?)まぁ、それも後で調べてやるか。」

 卑しい笑みを浮かべたグランは、ポケットから山吹色の結晶を取り出し力強く握り締めた。その直後・・・

 

  「(なにか・・・おかしい)」

 本番開始直後からあおいは直感的に異常を感じていた。
 開演前に演説をうった司会役のルクスンが直後行方不明になり、急遽代役が立てられた。
 しかしその仕事振りは驚くほどスムーズなのだ。
 それにこの司会者の声を最近聞いた覚えがある。

  「いよいよマジックショーもクライマックス!!
  ラストは!『摩訶不思議ばんじ〜じゃ〜んぷ!!』

  「!!!!!なにそれ!」

 司会者の言葉にあおいは耳を疑った。ラストは確か水槽からの大脱出だったはず・・・・
 思わず司会者の青年を見たあおいはそこでやっと気づいた。

  「あれは!ソン=ドッポ!!」

 次の瞬間異変が起きた。

   「わぁあああ!!!」
  「きゃぁああ!!!」
  「なななんだぁーー?!」
  「いやぁあああ!!!」

 ステージ、そして観客席から次々と人が飛び上がっていく
 まるで何かに吊り上げられるように・・・

 

  「くそ!何故だ!何故開かない!!」

 アンジェとともに控え室を出ようとしたイクミは、ドアの鍵がまったく開かないことに苛立ちを隠せなかった。

  「!!!これは!」

 傍にいたアンジェの顔に緊張が走った。

  「どうしたんだ?」
  「ヴァイアの発動を感知しました。・・・・しかも・・・2つの異なった力です!」
  「なんだって!!2つだと!!」

 イクミは胸ポケットから小袋を取り出し、中に入っていた緑の結晶を額に当てた。

  「(?!・・・・この力は報告書にあった『深紅』のもの!そして『山吹』!まさかグランが・・・・あいつめ〜!!!)」

 イクミはわなわなと震え出した。
 結晶を握り締めた拳から赤いものが滴り落ちる。

  「あの、イクミさん・・・・」
  
「・・・・後ろに下がってくれ。このドアを破壊する。」
  「は、はい」

 心配するアンジェを後ろに下がらせ、イクミは拳を前に突き出す。
 すると拳から緑に光る刃が出現した。
 イクミは刃をドアに向かって振り下ろした。

 

  「(゜O゜;ハッ!尾瀬イクミ!!」

 ベッドでまどろんでいたヘイガ―は思わず飛び起きた。
 彼の野生の感がイクミの危機を察知したのだ!
 彼は手早く身支度を済ませると部屋を出て行こうとした。
 そして去り際にチラッとベッドに視線を送るとやさしく微笑んだ。

  「(* ̄ー ̄)v行ってくるよ・・・」

 そこには一人の人間が白目をむいて眠っていた・・・・・・・

 

 

  「うっ!ぐううぁあああ!!」

 突然右肩に走った激痛に昴治は声をあげてうずくまった。

  「相葉君!!大丈夫!」

 ユイリィは驚いて昴治の傍に駆け寄った。
 昴治は右肩をおさえながらも『大丈夫』のゼスチャーをして見せ、なおも心配するユイリィの手助けを笑顔で断りゆっくり立ち上がった。

  「早く行かないと・・・・あおいが危ない!
  「えっ、どうしてあおいさん?」

 先ほどの痛みと同時に頭に浮かんだビジョン。
 ・・・・・・・それはあおい何者かに襲われている姿!!

  「とにかく俺、外苑のほうに行ってみます!」
  「わかった、私も一緒に行くわ。」

 二人がビルの外へ出ると一人の男が待ち構えていた。

  「・・・遅かったな」
  「きゃっ(*゜∇゜)ブルー!!!」

 ユイリィの胸はときめいた。
 彼女はブルーにホの字なのだ。

  「外苑まで用事ができた。お前も一緒に来い。乗せてやる。」
  「助かるよ、ブルー」

 昴治は素直に礼を言った。

  「・・・ユイリィ、とかいったな。お前も特別にひざの上に乗せてやる。」
  「キャ――ン!(*ノ▽ノ)そんなぁぁ〜」

 ユイリィ、暴走寸前

  「さぁ、乗れ」
  「・・・・・・・・・・」
  「これは・・・・・」

 ブルーの指し示した乗り物を見て二人は目が点になった。